首相主催の「桜を見る会」の前夜祭の会場となったANAインターコンチネンタルホテル東京が、17日の衆院予算委員会での安倍晋三首相の答弁内容を否定したとの報道で、安倍首相が国会で虚偽答弁を繰り返してきた疑いが強まりました。野党側は18日、安倍首相の答弁とホテル側の回答のくいちがいを説明するよう徹底して追及しました。(佐藤高志)
答弁を二重に否定
ANAホテルは、2013年、14年、16年に「桜を見る会」の前夜祭の会場となりました。
安倍首相は前夜祭について、これまで「ホテル側から明細書の提示はなかった」として、詳細については一切明らかにしてきませんでした。
これに対し、立憲民主党の辻元清美議員は17日の衆院予算委員会で、ANAホテルに問い合わせたところ「見積書や請求明細書を主催者側に発行しないケースはない」などと書面で回答してきた(表)として、「首相の答弁が事実と違う」と追及。安倍首相は「ホテルに確認したところ、『辻元議員にはあくまで一般論で答えたもので、個別案件については営業の秘密にかかわるため回答には含まれていない』ということだ」と述べました。
ところが、ANAホテルは17日の衆院予算委後、「『個別の案件については、営業の秘密にかかわるため回答に含まれていない』と申し上げた事実はない」と、メールで複数のメディアに対し回答したことが報じられました。安倍首相の答弁を明確に否定したのです。
さらに、報道では、ANAホテルは「弊ホテルとしては、主催者に対して明細書を提示しないケースはないため、例外はない」と改めて主張したとされています。辻元氏に示した回答を補強する形で、安倍首相の答弁を否定しました。
そもそもホテル側から明細書は出されなかったという安倍首相の答弁を否定したうえで、17日の安倍首相の答弁も否定したという点で二重に重い指摘です。
野党指摘を裏付け
前夜祭は、安倍後援会が主催しながら、政治資金収支報告書に収支が一切記載されていません。
このため、野党は、政治資金規正法に反すると追及。安倍首相は、ホテルが800人規模の参加者と個別に契約を結んでおり、安倍事務所には収支が発生していないという不自然な主張で、政治資金規正法には違反しないと繰り返し答弁してきました。
しかし、この安倍首相の説明も虚偽の疑いが強まっています。
ANAホテルの辻元氏への回答では、「領収書において、宛名を空欄のまま発行することはない」「代金は主催者からまとめて支払ってもらう」と証言しています。野党は当初から、800人規模のパーティーで、ホテルが参加者と個別に契約するなどあり得ないと指摘してきましたが、ANAホテルの証言は、その野党の指摘を裏付けるものです。
ANAホテルは、「主催者が政治家および政治家関連の団体であることから、対応を変えたことはあるか」との質問にも、明確に「ない」と答えており、安倍後援会や安倍事務所だけが例外にはならないことも明らかです。
ANAホテルの証言が事実なら、安倍首相の政治資金規正法違反の疑いはいっそう濃厚になります。
ウソで審議できず
安倍首相は、「桜を見る会」の私物化を追及されるたびに、すり替えや繰り返しの答弁でごまかし、野党議員を攻撃する手法を繰り返してきました。それが、国会審議を荒れたものに変え、時間を浪費させることにつながってきました。
17日の衆院予算委では、野党がANAホテル側の回答を書面で示すよう求めても、安倍首相は「私が話しているのは真実。それを信じてもらえないということになれば、予算委員会が成立しない」「いいかげんだと決めつけるのなら、コミュニケーションはみなさんとは成立しない」などと強い口調で野党を攻撃。ホテルに明細書を再発行してもらえば疑惑は簡単にはらせるのに、そのようなそぶりは一切示してきませんでした。
しかし、安倍首相のごまかしは、もはや通用しません。ANAホテルの証言は、安倍首相のウソを正面から突いています。
行政府の最高責任者である安倍首相が国会でウソをついたということになれば極めて深刻な事態です。誰も安倍首相の言葉を信じることはできなくなり、国会審議は成り立ちません。安倍首相に納得のいく説明を求めるのは、与野党を超えた国会議員の責務です。
首相も議員も辞めるべき事態
神戸学院大学大学院教授 上脇博之さん
数百人参加の宴会の場合、その主催者と契約し、主催者から料金を受け取るというのは高級ホテルの常識であり、「ANAインターコンチネンタルホテル東京」はその常識どおりに回答したにすぎません。安倍事務所は「前夜祭」の支払いに関与していないという安倍首相の主張こそ非常識です。
普通、疑惑を晴らせる有利な証拠があるなら率先してその証拠を提出するはずなのに、安倍首相はそれさえ拒否してきました。しかし、18日付の「朝日」「毎日」が報じたホテル側の回答により、辻元議員への17日の安倍首相答弁のウソが明らかになったことで、「前夜祭」の収支を安倍後援会の政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反はいっそう濃厚になりました。
あとは、(1)安倍事務所の支払額は幾らだったのか(2)参加者の支払額よりも高価な飲食が提供され、安倍後援会が公職選挙法の禁止する供応=有権者への寄付を行ったのか(3)ホテル側が超破格の値引きをして政治資金規正法違反の企業献金が安倍後援会になされたのか、それとも参加費では不足する分を安倍事務所側が補填(ほてん)していたのか―との疑惑に論点は移っていきます。そのためにも、まずはホテル側明細書の控えの写しなどを安倍首相側に提出させるべきで、野党は追及の手を緩めてはなりません。
「前夜祭」の違法行為に安倍事務所が関与している以上、安倍首相本人が責任をとるしかありません。まず、安倍氏が内閣総理大臣としての答弁でウソを言った以上、それだけでも首相を辞めるべき重大問題です。また、公選法や政治資金規正法への違反が具体的に明らかとなれば、法令を順守すべき行政の長が率先して違法行為を行ったことになり、首相どころか国会議員も辞めなければならない重大事態です。
(聞き手・林信誠)
『しんぶん赤旗』日刊紙2月19日付より