新型コロナウイルスの感染者は世界で累計500万人を超えました。欧米諸国では勢いが収まりつつありますが、ブラジルをはじめ中南米では深刻の度を増しています。パンデミック(世界的流行)の収束のために、国際社会に求められるものは何か。世界保健機関(WHO)をめぐるこの間の動きを追いながら考えます。
「新型コロナへの対応で連帯もみられるが、団結はきわめて弱い。さまざまな国がさまざまな戦略、ときには相対立する戦略をとっている。それで高い代償を払わされているのはわれわれ(国際社会)だ」
18日のWHO総会の開会冒頭であいさつしたグテレス国連事務総長は危機感をあらわにしました。この訴えを受け各国代表からはWHOへの支援や感染拡大防止のため国際協力を呼びかける発言が多くありました。
「衛生への脅威に対処するため、団結が必要だ」(メキシコ)、「イノベーションと研究での世界の連帯を呼びかける」(コスタリカ)、「われわれが世界的に共同して事に当たれば当たるほど、克服はより早くなり、より良く成功するだろう」(ドイツ)などの声が相次ぎました。
立場を超えて
国境を越えた感染症の拡大による甚大な被害に対処するためには、国際社会が知見を共有し、医薬品やワクチンなどが幅広く、公平にいきわたるようにする共同の対応が必要です。
過去には、対立関係にあった国が立場を超えて感染症対策に臨み、危機の克服に成功した事例があります。
米ソ冷戦時代には、猛威をふるった天然痘の根絶のため米ソ間で協力。米ソを中心に各国からワクチンや資金が提供され、WHOが根絶キャンペーンを展開する下で抑え込みに成功しました。
2014年にエボラ出血熱が問題となった際には当時の米オバマ政権が積極的に働きかけ、国連安保理決議で「国連エボラ緊急対応ミッション」設立が実現。国際的な協力のもとでエボラウイルスを抑え込みました。
両国の対応は
しかし、現在、コロナウイルスのパンデミックで世界が「人類の危機」(グテレス氏)に直面する中で、米国と中国の対立が国際社会の連帯を阻んでいます。
米トランプ大統領は「WHOは中国寄り」と断じ、拠出金の減額や撤退をほのめかしています。総会で米国のアザー厚生長官は、中国が「新型ウイルスの隠ぺいを試みた」と主張。WHOの対応も情報共有などの面で「失敗」と批判しました。
米国は、WHOが先月発表したワクチンや治療薬の開発を加速し、公平に行き渡るようにするための国際協力体制にも不参加を決定。国際社会で足並みをそろえた対応を取ることを阻んでいます。
一方、中国は感染拡大の初期対応について欧米諸国から情報公開を求められていますが、応じていません。米国やオーストラリア、ドイツなどが可能な限り透明性を確保するよう要請するなど、中国政府の対応をめぐり圧力が高まる中でも、具体的な説明はありませんでした。
情報公開に応じない姿勢は、感染拡大防止の初動対応について国際的な教訓とすることや国際協調の動きに障害をもたらしています。中国は総会でも「透明性をもって責任ある態度でWHOや関係国に情報共有してきた」と述べるにとどまりました。
米中対立が影を落とす中、総会で採択された決議には、欧州連合(EU)やオーストラリアなど60カ国以上が提案した「公平かつ独立した包括的評価の段階的プロセスを開始」も含まれました。中国もこの共同提案に名を連ねているため、今後の実効性が問われます。決議を踏まえた連帯と協力の強化が緊急に求められています。
台湾のWHO参加は当然
新型コロナ対策の国際協力で話題となっているのはWHO総会への台湾のオブザーバー参加の問題です。
台湾の蔡英文(さい・えいぶん)政権は、昨年12月31日、中国・武漢からの入境者への検疫を開始。これは武漢市が原因不明の肺炎患者の確認を発表した日と同じ日でした。
1月21日に初の感染者が台湾で確認されると、翌22日に蔡総統は全力での防疫を指示しました。2月には、買い占めなどの混乱を防ぐために政府がマスク全量を買い上げて流通を管理する制度も導入。この結果、5月22日現在の感染者は441人、死者7人にとどまっています(米ジョンズ・ホプキンス大)。迅速な対策で感染を封じ込めた台湾の経験は国際的に高く評価されています。
2009~16年のWHO総会には台湾もオブザーバー参加しています。ところが、中国は、台湾が現政権に代わって以降、「一つの中国」との立場を明確に認めていないことなどを理由に、オブザーバー参加に反対し、今回の総会では参加が見送られました。しかし、感染症対策は世界的な課題であり、地理的な空白があってはなりません。また、国際社会が台湾の経験を共有するうえでも、オブザーバー参加は有益でしょう。
WHO憲章は、「最高水準の健康を享有することは、人種、宗教、政治的信念または経済的もしくは社会的条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである」「すべての人民の健康は、平和と安全を達成する基礎であり、個人と国家の完全な協力に依存する」と述べています。この精神からみれば、台湾のオブザーバー参加は当然のことです。
日本政府は連帯と協力促せ
志位委員長が声明
日本共産党の志位和夫委員長は21日、声明「パンデミックの収束へ国際社会の連帯と協力を」を発表しました。今回のパンデミックを収束させるため、国際社会が連帯と協力を図るよう訴えるとともに、日本政府に対し、国内対策に全力を挙げつつ、国際社会の連帯と協力のために外交イニシアチブを発揮するよう求めました。
政府諮問委員会の尾身茂会長も20日、国会での参考人質疑の中で、共産党の小池晃書記局長の質問に答え、パンデミック収束のための米中両国や日本の貢献の必要性を指摘。「政治的な利害はおいて、ヘルスのためにみんなが団結する。日本政府にはそのためのリーダーシップをお願いしたい」と語っています。