公職選挙法違反(買収)の疑いで、前法相・衆院議員の河井克行容疑者と、妻で参院議員の案里容疑者が逮捕され、一大疑獄事件へと発展するなか、安倍晋三首相をはじめ自民党は、事態の沈静化に躍起になっています。
「わが党所属であった現職国会議員が逮捕されたことは、大変遺憾だ」
18日の記者会見で、安倍首相は克行・案里両容疑者の名前を語らぬまま「謝罪」しました。
しかし克行容疑者は、自身を重用した安倍首相との「蜜月」関係を誇示してきました。克行容疑者の広報誌『月刊 河井克行』2016年錦秋号の表紙は、アフリカを訪問する安倍首相と、首相補佐官として随行する克行容疑者のツーショットを掲載するなど、随所で「側近ぶり」をアピールしています。
ここから、「安倍案件」として、自民党本部のテコ入れによる大買収事件へと続く道筋が浮かび上がってきます。
克行容疑者は2015年10月、首相の「側近中の側近」とされる首相補佐官に就任。「日経」は「総理を支える5人衆」の一人と紹介したほどです。
17年8月には、首相補佐官から新設された自民党総裁外交特別補佐に起用されます。首相の特命に基づいて議員外交を行う要職です。『月刊 河井克行』は、克行容疑者の各国歴訪を事細かに紹介しています。
また克行容疑者は、安倍首相を支えることを基本方針に掲げる、自民党の派閥横断型のグループ「きさらぎ会」の幹事長を務め、同時に無所属議員の会「向日葵(ひまわり)会」も主宰。保守系雑誌で知られる『月刊Hanada』18年7月号に「安倍総理こそノーベル平和賞だ」との一文を発表するなど、同年9月の自民党総裁選で安倍首相の支持拡大に努め、三選を支えました。
他方、定数2の参院広島選挙区で議席を持つのは、かつて安倍首相を「もう過去の人だ」とこきおろした溝手顕正元参院議員会長でした。19年7月の参院選で自民党本部は2議席独占を狙うとして、同党県連の反発を押し切って案里容疑者の擁立を決定。しかし溝手氏に比べて県内全域で首長・地方議員らへの浸透が弱いと指摘されていたといいます。そのテコ入れのために、溝手氏への資金1500万円の10倍にあたる1億5000万円が、自民党本部から案里容疑者陣営に入り、大買収の資金とされたのではないかとみられます。自分に従うものは厚遇し、逆らうものは徹底的に攻撃を加えることで、内外の恐怖心による縛りを強めるという安倍手法が露骨に浮かび上がります。
恩讐を背景に、安倍首相が肩入れする候補者を勝たせるために、選挙の公正を踏みにじったのではないか―。「安倍案件」とされる1億5000万円もの巨額資金の提供、克行容疑者の法相への抜擢と、安倍首相の政治責任が重く問われています。